個人的に”良かったなぁ”と思える読切感想を語る|きらら探求軍
私は基本的に作画の良し悪しで漫画の良し悪しを決めるほど浅く漫画を読んでいるつもりはありません。
だからかベタ褒めした読切やゲスト掲載作の印象が薄く、その分逆にベタ褒めした作品については印象強めなのです。
なので前回と打って変わって今度は実に良かった読切作の感想をまとめて書こうと思います。
1本目「散歩名人」
1本目の漫画としてはふさわしくないのかもしれない。
けれども実に上手い漫画だなと思ったので一本目に書きます。
2023年1月号『まんがタイムきららフォワード』に掲載された読切です。
散歩好きな「琴葉(ことは)」の師匠「散歩名人(さんぽめいじん)」が競歩名人の「サヤ」と駅までの散歩 vs. 競歩勝負をする漫画です。
このあらすじを見てこの漫画が面白そうだなぁと思える人はいるのでしょうか。
逆につまらなそうだなと思う人の方が大多数ではないのでしょうか。
実際のところ・・・。
そこまで面白い漫画ではありませんでした。
ただ先にも書きましたが上手い漫画だなと思ったのです。
その理由を書いていきます。
この漫画のメインとなる要素は散歩名人 vs. 競歩名人という要素です。
で、主人公は散歩名人の付き人なので、
散歩っていうのはとてもいいものなんだよ
というのがこの漫画の本題になってきます。
そういう描写を漫画的に実によく描かれているなと思ったのです。
具体的に言えばストーリーや絵の背景、人物のセリフ等余白がものすごくあります。
悪く言えば外見も中身もスッカスカ。
でも良く言えば漫画全体にゆとりを感じさせる作りになっているのです。
余白の美というヤツです。
問題なのはこの事を作者が狙ってやっていたか否かという事。
正直作者の画力を鑑みれば意図している感はないようにも思えるのですが・・・。
狙ってやっているのだとすれば作者は漫画を描くのが上手な人かなと思います。
2本目「ラスボスは逃げ出した▽
こちらは現在連載中の作品です。
まずは簡単にあらすじを書いておきましょう。
長く続く人間と魔族との争いの中、勇者と魔王は幾度となく戦いを繰り返していたが、大抵魔王が負けていた。
そんな歴史を痛いほど学んでいた現魔王は人間に包囲され今にも落城しそうな魔王城からの逃亡を試みる。
これがとにかくシンプルに面白いのです。
この”シンプル”というが何を意味するかというと、話がシンプルということです。
これは話に捻りがないだとか単調だとかそういう意味ではなく、登場人物の行動心理にブレがない芯があるということです。
魔王:人と争わず魔王城から逃げ出したい
配下(スライム):魔王にはちゃんと魔王としていてほしい
配下(四天王):特に魔王を護ることにこだわりはない
人間:魔王に確殺をいれたい。
この4つだけ。
特に人間の「打倒魔王」への流れの生まれ方がわかりやすくて、
国王の像が壊された
↓
魔族の宣戦布告か?
↓
魔王ぶっ殺す
といった感じ。
作中の人間全員が竹を割ったような性格をしています。
国王に謀反を働こうとする人民だっているだろうにそういうことは一切考えずに魔族のせいにして打倒魔王を掲げる、そのシンプルさが非常に面白いのです。
もっとも、魔族対人間の話を描く上で人間同士のいざこざなんか描かれても鬱陶しいだけなんですけどね。
でもこの漫画の魔王なら「まちカドまぞく」のシャミ子のように人間同士のいざこざを解決するためになんとか奮闘するのかも。
そう考えると現在連載されているのがとてもありがたく感じます。
ちなみに何度も書いていますがこの漫画は現在『まんがタイムきららMAX』にて連載中です。
しかしこの漫画の読切が初掲載したのは2023年の7月号です。
そして連載が始まったのがそれから約半年年後の2023年2月号。
私がこの事から学んだことは芳文社は過去の読切で特に好評だったものはしっかり記録していて打ち切りなりなんなりで連載作が減った時に過去に好評だった読切作を連載作として昇華させることもあるということです。
「ラスボスは逃げ出した▽」はいわゆる補欠合格みたいな作品だったのかもしれません。
3本目「まほっと!」
3本目は2022年5月号『まんがタイムきらら』に掲載されたです。
きららにおいて”魔法”というインパクトがあるようで実は全くと言って良いほどない題材を主題にした漫画です。
こちらも1本目の読切同様正直そこまで面白い漫画ではありませんでした。
というのも、
- ”魔法”という新鮮味のないテーマを主題にした漫画
- 魔法を活かしきれてないストーリー
- 話のテンポがかなり遅め
と、逆に面白くなる要素の方が見つけにくいほどの読切でした。
それでもこの漫画が”良いな”と思ったのは魔法というテーマをまるで登場すること自体があたりまえのことのように描いているからです。
何度でも書きますがきらら作品において魔法のようなファンタジー色の強いテーマはありふれたテーマであります。
しかし我々のように現世に生きる人からすれば魔法というのはないことが当たり前なのです。
でもこの漫画「まほっと!」の中では人間が酸素を取り込み二酸化炭素を吐き出すかの如く当たり前に魔法を扱います。
つまり「まほっと!」中では魔法はあって当たり前の存在なのです。
この読者と漫画内のギャップを極々自然に描いているのが「まほっと!」という漫画なのです。
この事を踏まえて先に上に書いた3つの面白くない要素を補足します。
”魔法”という新鮮味のないテーマを主題にした漫画
→ 日常生活の中で飛び抜けて面白いことなどそうそう存在するものではない
魔法を活かしきれていないストーリー
→ 面白い出来事に囲まれている人などやっぱりそうそういるものではない
話のテンポがかなり遅め
→ 1日は24時間あって無駄なく生きている人間など数えるほどしかいない
つまり魔法という我々からすれば非日常的なものを「まほっと!」中ではあって当たり前の日常的なものとして扱って描いているということです。
題材に魔法が入ってきているから変な勘違いが生じるのかもしれませんが、例えば「ゆゆ式」とか「スロウスタート」とか、同じきらら漫画の中ではジャンル的にこれらに似た漫画を作者は描こうとしているのではないのかな? と思えたのです。
結果的にこの漫画は連載しませんでしたしきっとアンケート的に好評ではなかったのだろうから今となっては答え合わせはできません。
なんか私が勝手に深読みしているだけって感じがしないでもない。
最後に
自分で改めて書いていて思ったことが、”良かったなぁ”と思えた漫画は必ずしも面白かった漫画ではなかったということです。
これまでに書いてきた3作品のうち純粋に面白かったと思えたのは「ラスボスは逃げ出した▽」だけですから。
この点に私がただただ深読みしているだけなのでは? と思ってしまう理由があるのですが、もしこの深読みで作者がその漫画で描きたかったこと、その真髄を読み取れているとするなら少し誇らしく感じます。
作者が全く意図せずに描いている可能性もあるので大きな声では言えませんけどね。